Wikipediaを疑え
Wikipediaの「山本五十六」の「逸話」の項に
また「いまどきの若い者はとはばかるべきことは申すじく候」と述べ、ステレオタイプの印象で若者を否定する年長者を諭す言葉も残している。
とある。「申すじく」では意味が通らない。常識的に考えて脱字、正しくは「申すまじく」だろう。
が、ソース無しに脱字と断定はできない。気持ちが悪いので検索してみたところ簡単に資料がみつかった。
某大将宛ての山本五十六の手紙を昭和17年3月7日の朝日新聞が記事にしており、その中に「いまの若い者」云々の言葉がある。記事のスキャンを掲載しているブログがあったので筆写引用する。(ソースとしてブログにリンクしておくが、下の引用はすべて朝日の記事(記事全文)。引用中の引用は山本の手紙。)
(
“若い者”など申すまじ 偉功に泣く山本司令長官
山本聯合艦隊司令長官は特別攻撃隊員の壮挙に感激、この程内地の某大将に左の手紙を書き送つた特別攻撃隊には聯合艦隊司令長官として感状を授与してゐる山本大将自身が個人としてもまた如何に感激してゐるかが、この文中によく現はれてゐる
『…ハワイに飛込みたる特別攻撃隊にいたりては未だ十分申上ぐべき時期に至らざるも(中略)少くも戦艦一隻を撃沈したることは明瞭にして兵学校卒業一年前後の若武者どもを加ふるこの決死隊が敵港に突入してこの成果を揚げたるを思へば、いまの若い者はなどと口はばつたきことを申すまじきこととしかと教へられ、これまた感泣に堪へざることに御座候』
記事での表記は「申すまじ」、「申すまじきこと」で“名言”と完全一致ではないが、山本の言葉としては「申すまじく候」が正しいと断じて間違いないだろう。
Googleで「若い者はとはばかるべきこと」を検索すると9件ヒットする。すべて山本五十六の“名言”に関するもので、9件すべて「申すじく候」と脱字バージョンで紹介している。9件の内2件はWikipediaとgoo Wikipedia。残り7件は、どれも出典を書いてないが、Wikipediaをそのまま引き写したものだろう。
親亀こけたら皆こけた、だな。いちいち疑ってもいられないだろうが、せめて「Wikipediaによると」の一言を添えておけば間違いがあってもある程度責任回避できるのに、なぜ出典を書かないのかなあ。
Wikipediaの当該箇所は、単純脱字と確信がもてたので直しておいた。