そいとごえすの退避ブログ

2019-02-21 はてダから移転。

ケーナでバッハ

都内JR駅前でケーナの音色が響き始めた。とても下手。明らかに素人。横目で見る気にもならず無視して通り過ぎ、20メートルほど歩いたところでハタと気づいた。この曲は、バッハのバディネリ管弦楽組曲第二番の最後の曲)ではないか!
南米の民族楽器ケーナによるバディネリ。学生時代にFMラジオで聴いた“天上の音楽”だ*1。長年探していたのに、目の前で奏でられているのに、気づかずに通り過ぎてしまうとは。いくら下手な演奏とはいえ。これも老化現象の一つなんだろうか。
引き返すと、南米系とも東欧系とも見える小柄な年齢不詳の男が吹いていた。やはり下手。下手なのに無理してアップテンポで吹こうとするのでぐだぐだ。路上に置いたギターケースの中にCDが4タイトルほど並べてある。暗いのでよく見えないが、どれもありきたりのフォルクローレ曲集のようだ。と、男が演奏を止めてCDを一枚手に取り、差し出した。
字が小さくて曲名が読めない。「今吹いていた曲は収録されてる?」と聞いてみた。日本語よくワカラナイ。わからないなりにお互い苦労してやりとりして、結局、バッハの曲は客寄せで、CDには入っていないとわかった。残念。売り子の男は下手でも、CDにはまともな演奏が収録されているかもと期待したのだが。とても残念。


帰宅して、ネットでケーナを検索。YouTubeにはケーナでバッハの楽曲を演奏した動画がかなりある。試しにロス・チャコスを検索してみると……あった! 我が“天上の音楽”、ロス・チャコスによるメヌエットバディネリが!
いい。とてもいい。しかし、これは、天上の音楽、というほどのものか? 感激しながら聴き始めたもののバディネリの途中で吹いてしまった。それでもメヌエットバディネリはまだいい(個人的にはすごくいい)が、ポロネーズ(の前半部)など、スパイク・ジョーンズの冗談音楽のようにも思えるぞ。
学生の時に聴いたあれは半覚醒状態がもたらした幻にすぎなかったのか、それとも老化で感性も鈍ってしまったのか。長年探していたものを見つけてとても嬉しいのだが、同時に少し寂しくもある。


管弦楽組曲第二番(BWV1067)は、序曲、ロンド、サラバンド、ブーレ、ポロネーズメヌエットバディネリで構成される。残念ながらYouTubeにはロス・チャコスの組曲二番は4曲しかない。




比較用に正統的演奏にもリンク


*  *  *

4年前のエントリーから自家引用。


山口フォルクローレ愛好会お気に入りLP・CD紹介によるとキングレコードが発売していたロス・チャコスのレコードは6枚あったとのこと。「アンデスの笛」シリーズは私の記憶では4枚だったから、残りの2枚のうちどちらかが“南米民族楽器によるバッハ楽曲の演奏”を収録したレコードだったんだろうなあ。


今回の検索で未入手の2枚について言及するページを見つけた。上に引用したエントリーでも言及&リンクしている月刊「モンターニャス」の先月号の記事。


 さて、ロス・チャコスのその後のLPについては、資料(中南米音楽フォルクローレ'79・p160)でしか知り得ないが、「アンデスの笛/ロス・チャコスの芸術<V>」は、「ぜんぶメンバーの自作で、フランス人によるロス・チャコスの特徴がもっとも出たLP」とコメントがある。

 「アンデスの響き/ロス・チャコスの芸術<VI>」は、「すべてメンバーのオリジナル作品だが、南アメリカへの夢をたくさん含んだ内容。女性歌手、バイオリンやチェロも入る」とする。

 また、「アンデスのバッハ/ロス・チャコスの芸術<IV>」は、なぜかIVであるが、「バッハの管弦楽組曲第2番のほとんどの曲目が入っている」と・・。その他、ベスト編集と思われる「エバーグリーン/ロス・チャコス」というLPもあった。

(中略)

 さて、最近のロス・チャコスについては、特段関心も無いのですが、2千年に入って「ロス・チャコス・リバイバル(South American Music In Paris)」というCDを出しているようである。下の情報を参考に・・・。
機種依存文字は適宜書き換えた。)

推測どおり、私が買いそびれたアルバムの一枚が「アンデスのバッハ」だったのだな。「バッハの管弦楽組曲第2番のほとんどの曲目が入っている」ということは、逆にいうと全曲目は収録されていなかったのか。それならYouTubeにもどこにも無くて当然か。

備忘リンク